このサイトが本になりました

地獄草紙について

地獄草紙は、今からおよそ800年前の平安時代末期に描かれた絵巻物で、さまざまな行状で地獄に落とされた罪人が、さまざまな地獄で、責め苦しめられるところを描いた絵である。ここに描かれた地獄の種類と罪人の罪状については、仏教の経文に書かれたことに沿っている。つまりこれは絵師の思い付きで描かれたのではなく、原典に基づいてこれを絵にしているのである。ただし、経文の地獄の描写はわりとあっさりとした文であり、それほど詳細ではない。したがって、絵師はさまざまな想像力を働かせ、これらの絵を描いたのである。

現在、残っている地獄草紙は、東京国立博物館にある「安住院本」と呼ばれるものと、奈良国立博物館にある「原家本」と呼ばれるもの、「旧益田家本甲巻」と呼ばれるばらばらに散逸しているもの、の三つがある。もとになった経典は、「安住院本」は「正法念処経」で四つの地獄を、「原家本」は「起世経」で七つの地獄を、「旧益田家本甲巻」は確定ではないが一説では「仏名経」の「宝達問答報応沙門経」で七つの地獄を描いている。

以上の地獄絵にはひとつひとつ詞書が付けられていて、元となる経文の内容が書かれている。原典の経文は漢文であるが、この絵巻物の詞書は、かな交じりの和文の古語で書かれている。このサイトでは、これをさらに分かりやすく、現代語にラフに訳して紹介する。また、後の時代に、これらの絵の模写がたくさん作られている。そちらの方が新しく傷みが少なくクリアだが、散逸して入手が難しい上に、やはりオリジナルの味わいがいまひとつ出ていないものもある。ここでは、すべてオリジナルの絵を使っている。


作品データ

地獄草紙(安住院本)

紙本着色
26.9 × 249.3 cm
平安時代・12世紀
東京国立博物館蔵

地獄草紙(原家本)

紙本着色
26.9 × 249.3 cm
平安時代・12世紀
奈良国立博物館蔵

地獄草紙(旧益田家本甲巻)

紙本着色
26.9 cm
平安時代・12世紀
火象地獄: 五島美術館蔵(東京)
咩声地獄: シアトル美術館蔵(アメリカ)
飛火地獄: 個人蔵
剥肉地獄: 個人蔵
沸屎地獄: 奈良国立博物館蔵
解身地獄: MIHO MUSEUM蔵(滋賀)
鉄山地獄: 不明